りんごとみかんの交流学習ABC(その2)

 交流学習で子どもが変わる

 ■ 動機付けは
  交流学習の場合、動機付けが一つのポイントとなる。子どもたちから「交流 したい」「伝えたい」という思いをいかに引き出すかということである。今回は導入の授業(5年・社会)を次のように行った。
  1. 地域で有名なくだものを発表させる(一番は隣市の江刺りんご)
  2. 「江刺りんご」について知っていることを発表する(食べたことはあるが知っていることは少ない)
  3. どの程度日本で有名なのか考える(最高で「3番ぐらい」、ほとんど10番以下
  4. 「日本一の江刺りんご」のホームページ(以下HP)を紹介する(子どもたちは驚く。「味が日本一」と聞いて「そういうことか・・・」)
  5. 江刺りんご出荷の値段を知る(ご祝儀相場の一個7000円に驚く)
  6. なぜ江刺のりんご作りが盛んになったのか、味がいいのか考える(土壌、気候、りんご農家の工夫、技術等と予想→HPで簡単に確かめる)
  7. これからの学習の見通しを知る(「江刺りんごを追究する」→「追究したことをビデオにまとめる」→「他の小学校に見てもらう(交流する)」
  8. 江刺りんごの何を追究したいか考える(「どのような土や気候が合っていたのか」「働いている人の工夫や苦労」「おいしさの秘密」等10個出る)

 ここまでで子どもたちはHP等の資料から、「江刺りんごはかなり有名なんだ」ということを改めて知った。同時に今後の学習の強烈な動機付けになった。この点が今回の交流学習のポイントである。自分たちに追究したい明確な課題がなければ「誰かに学んだことを伝えたい」という気持ちは起こらない。

 さて、交流相手校を決める時のこと。教師間では決まっているのだが、子どもたちはもちろん知らない。そこで次のように持っていった。「ビデオを見せる相手だけど、「日本一のりんご」に匹敵する「日本一の〇〇(果物)」の市町村の小学校がいいよね。りんごと言ったら、みんなは何か思い浮かぶ?」

 子どもたちからは、すぐに「みかん」という反応が出てくる。

「『日本一のみかん』をキーワードにインターネットで検索してみようね。(実際に検索して、画面をスクリーンに示す。)『三ケ日みかん』が出てきたね。地図帳で確認してみよう。静岡県にあるね。」
 ここで、子どもたちから「(中川小学校のある)細江町のすぐ近くだよ」という声が出てきた。おこめの交流の時に印をつけていたのである。 「じゃあ、中川小学校に『みかんでも交流しましょう』と声をかけましょう。」
と言うと歓声があがった。「これから楽しい学習が始まる」・・・そんなことを考えたのだろう。
 ■ 実物の威力
 この動機付けの時に大きな役割を果したのが実物である。実は子どもたちは導入の時間に江刺りんごも三ケ日みかんも食べたのである。 「江刺りんごの味が日本一」というのを知った時点で、「やっぱり実際に食べなくちゃね」ということでさっそく子どもたちと試食。「おいしい」という声が自然に出てくる。また、「三ケ日みかん」とホームページで検索した時点で、「実はここにあります」とこれまた試食。「本当に甘い」「やっぱりおいしい」というつぶやきが次々と出てきた。この試食が「交流したい」という意欲を高めたのは間違いない。実物の威力である。

三ケ日みかんを持ってポーズ!
 なお、交流が始まった時点で改めてお互いに、「江刺りんご」「三ケ日みかん」を交換した。もちろん子どもたちは大喜び。ある子は日記に次のように書いてきた。
「学校で三ケ日みかんを食べた時、実はなーんだ、ふつうのみかんじゃんとしか思わなかった。しかし、家で前からあったみかんと食べ比べてみるとふつうのみかんは最初甘くて、あとは味がうすいんだけど、三ケ日みかんを食べてみると、ふつうのみかんよりはるかに甘く、甘い味があとまでずっと続きました。うまい、うまい。あっという間に二つのみかんを食べてしまいました。ははあ〜、おそれいりました。」
 ■ ビデオ作りでお互い刺激し合う関係に
 今回の交流学習では、交流校どうしが「刺激し合う関係になる」ということを目指した。交流そのものだけを目的にするのなら、「お互いに仲良くなりましょう」で終わる可能性がある。今回は学習のテーマが決まっている。お互いがそのテーマに向けて学習をしていくのなら、相手は仲良しだけではなく学習の競い相手ともなる。
 そこで、学習をより焦点化するためにビデオ作りでは次のような打ち合わせを、中川小学校の先生とメールで行った。
  • ビデオ作りでは6つの同じテーマを決める。お互いに6班があるので、一つの班が一つのテーマを2〜3分程度のビデオにする。
  • ビデオを作る過程でその経過を報告し合う。
  • ビデオができたら交換し、お互いの作品から学ぶ。
     
     6つのテーマは子どもたちから出たものをもとに、「選果場」「種類と味(栄養と料理)」「歴史」「売るための工夫」「りんご農家と技術」「土地や気候」にした。これらのテーマについて、まずくわしく調べる。調べた内容をもとに、どのような内容・工夫でビデオにす
    るか話し合い、実際のビデオ制作を行った。
     その過程でお互いに電子掲示板で情報の交流を行った。たとえば、キャッチコピー(例:「選果場で大活躍!光センサーって何?」「工夫は何?すばらしい歴史だ、わい化の木」)や制作状況を班の代表が伝えた。たとえば、ある班は次のように発信している。
 今日りんごCM作りの計画を立てました。シナリオ作りは大変だったけど、いいCMにするので楽しみにしていてください。ぼくたちは、実際に食べてそのりんごの蜜を見せます。演技をするのが楽しみです。

 この情報を交流相手校の同じテーマの班の子どもたちが見る。「学級」と「学級」の交流だったのが、「班」と「班」とのつながりになり、ぐっと身近になる。そして、お互いに「よし、自分たちもがんばろう」という気になる。まさに「刺激し合う関係」である。

 ■ 「はじめての共同学習」は重宝なツール
 お互いの情報交換で利用した電子掲示板は、「はじめての共同学習」(http://is.im.mri.co.jp/~co-study/)である。掲示板の他に、チャット、アンケート、クイズ、予定表等、交流学習初心者には十分な機能である。

掲示板に感想を書きこむ
 今回の交流では掲示板のみの使用であったが、実に重宝であった。たとえば、ビデオ作りの過程の情報交換の他に、実際にビデオを送ってから班ごとに「自分たちの班の見どころ」を掲示板に書き込む。それはそのまま、ビデオを見る際の視点になった。また、画像を添付できるのでみかん・りんごの実物交流の時には、みかんをいただいて喜びいっぱいの画像を送ることができた。
 実は授業だけではない。私自身にとっても重宝だった。子どもたちの書き込んだ内容は、そのまま担任に自動的にメールで送られてくる仕組みになっている。その文章で子どもたちの学びを評価したり、学級通信にコピーして二次活用をし
たりした。子どもたちも学級通信に掲載された自分の文章を読んで喜び、交流学習のことが話題になった家庭がいくつもあった。
 ■ 子どもたちの記憶に残る学習になっていくように
 中川小学校送られたビデオを見て感想を書き込む授業を、校内で参観した先生がいた。その先生から翌日手紙をいただいた。
 授業を見ながら、自分自身が20年以上前に経験した小学校2年生の時の交流学習を思い出したというのである。その頃は2年生でも社会科があり、農村部だった自分たちの地域の生活を調べ模造紙にまとめ、同じ岩手県内の沿岸部の小学校に送った。沿岸の小学校から同じように海の生活についてまとめたものが届いて、とても喜んだという内容であった。
 
 この手紙を読んで、交流学習の凄さを感じた。20年以上前の、しかも小学校2年生の時の学習をしっかりと覚えているのである。子どもたちが大人になっても記憶に残っている学習は、そんなにない。その貴重な学習に交流学習はなり得るのだと感じた。

 今回のりんごとみかんの交流学習のことも、子どもたちはずっと覚えているに違いないと手紙を読んでふと思った。
 ■ 教師自身が一番楽しんだ
 今回の交流学習で子どもたちは、最終的に「りんごとみかん」の共通性について考えることができた。それぞれの地域の気候の特色に応じて果物を作っていること、農家の人々の苦労や喜びは果物の種類が違っていても同じであること等について深く学ぶことができた。
 これらは、自分の地域の特色であるりんごについて調べただけでは、見えない部分である。みかんという違う地域の違う果物についての情報をくわしく得たからできたことである。その点では、「交流学習だからこそできた学び」である。
 
そして、今回の交流学習で、子どもたちの意欲的かつ真剣な学習ぶりや掲示板を通しての喜ぶ様子を見て、毎日新鮮な気持ちで楽しく授業を進めることができた。

 最終的に交流学習を一番楽しんだのは私かもしれない。

その1


作成者:佐藤正寿

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