元博士論文できました報告。

「学校間交流学習ってな〜に?」

博士論文「学校間交流学習における協同性の研究」をもとに
学校間交流学習がどんな学習か?をあれこれまとめたページ

近況

 2004/11/02 本の出版にあわせてモデル図をちょっと修正
  08/20
全面リニューアル。博士論文の内容がここを読めばだいたいわかります。
 2003/06/02
修正版をアップ。なんと60箇所以上(^^ゞ
 12/03
無事提出。あれ,こんなに更新してなかったっけ?(^^ゞ
 05/18
文献やや追加。意義についても整理。
 05/09 LOT研にて発表
 G.W. 山篭りしてちょっとがんばる。
 04/23 ゼミで発表
 04/16
文献もうちょい追加。
 03/05 文献ちょい追加。
 02/27 定義についてちょっと議論。
 02/18 参考文献を整理してみました。勉強してるフリ?
 2002/02/10 博士論文の大枠を考えてたら、こんなWebページができました。えーい!公開しちゃえ〜。


学校間交流学習?

 異学年、異校種、近くの学校、離れた学校、外国の学校と、あるいは、専門家や地域の人。コミュニケーションやコラボレーションを重視した学習が各地で試みられています。私自身、この何年か、特に小学校の学校現場での学校間交流学習の授業実践を見てきました。具体的には、NHK学校放送番組「インターネットスクールたったひとつの地球」「おこめ」と連動した交流学習プロジェクトの運営・サポート役にこの5年ほど取り組み、そのプロジェクト用の交流システム(いわゆるBBSですね)の設計・開発を手がけてきました。そして、それらを活用した素晴らしい実践を見てきました。(projectのページ参照)

 その一方で、交流学習にチャレンジする先生方からは、その面白さと同時に、難しさについてもたくさん聞いてきました。相手をどうやって見つけたらいいのか、先生どうしの打ち合わせはどこまでするべきか?テレビ会議することだけが目標になってしまったり、相手意識のないままの「発表ごっこ」、仲良くなったものの、それで子どもたちは何を学んだんだろう?などなど。

 そこで博士論文では、学校間交流学習がどうしたら成立するのか、どんな要素があるのか、交流の種類は?そもそも、どう定義したらいいの?といったことを検討して、学校間交流学習の理論化・枠組みづくりをしてみました。以下は、この博士論文の中から結論の部分を抜き出して再構成したものです。各章へのガイドにもなります。学校現場の先生方が交流学習をはじめたり、実践している中で「あれ?」と思ったときの何らかの指針になれば幸いです


学校間交流学習とは何か?

 学校間交流学習をひとことであらわせば「地域の離れた学校間をネットワークで結んだ学習」と言うことができるでしょう。けれどこれをもう少し詳しくその中身を考えた定義を考えると、なかなか難しい問題です。ネットワークを使った学習には、教室内でコンピュータを使って協調的な学習を支援するものや、専門家が遠隔で授業をするといった交流もあります。これらは協調学習、共同学習、協同学習、遠隔学習、遠隔授業など、いろんな呼び名がつけられ、一応の区別はされています。ここで「学校間交流学習」ならではの特徴を挙げるとすると次の3点が考えられます(「協同」概念については2章であれこれ議論しています)

 論文では最終的に学校間交流学習の定義として、次のようにまとめることにしました。

「生活地域の離れた学習集団の間に協同的な関係を築き,
学習対象へのリアリティを獲得することを目指した教育方法」

 ここでキーワードにしたのは「学習対象へのリアリティ」。メディアを通して他地域の人とコミュニケーションできるという実感。いっしょに学習をすすめてきた仲間だからこその信頼関係。生活地域の違う子どもたちから直接もらう情報をつなぎあわせた、地域を越えた学んだ内容についての確かさ。このような地域を越えた実感、信頼、確かさといったものを、「学習対象へのリアリティ」としました。教科書・放送番組、インターネットなどのメディアで調べたり、専門化や地域の大人に教えてもらうなど、交流学習で学ぶ内容は、他の手段でも代替できます。けれども、その内容をより実感したり、同じ年代の(けれども異質な)子どもたちの間で分かちあったりする手段が学校間交流学習なのです。


3つの層に分けてみると?

 さて、このような「学習対象へのリアリティ」を考えていくと、交流の段階、目的によっていくつかのレベルがあるのが分かります。本研究では、「コミュニケーション」「コミュニティ」「コラボレーション」の3層でとらえることにしました。そうすると、子どもたちが交流の過程で獲得していくリアリティ、それをもたらすために教師はどのような手立てをうっているか、そしてそれはそもそもどのような「ねらい」をもって仕組まれたのか。これらがすべてつながってきます。第7章本研究の結論として、図に示したのが下のモデルです。


※このモデルは、日本文教出版より発売の書籍「学校間交流学習をはじめよう」 に掲載したものです。博士論文の頃と少し単語が違います。

それぞれの階層を説明しておきましょう。博士論文では階層ごとに1つの章を用意して、関連した研究成果をまとめています。

コミュニケーション(4章)・・・ネットの向こうにいる相手とは、メール、BBS、テレビ会議などを駆使します。また、交流では、プレゼンテーションや、相手によっては、外国語のスキルも要求されます。このレベルでは、コミュニケーションツールをどう使いこなすか?(Dの情報活用能力)と、Aのコミュニケーション力の育成つまり、子どものスキル面のトレーニングが指導上のねらいになります。

コミュニティ(5章)・・・交流相手とのつながりが深まってくると、参加している学校の間の電子コミュニティが生まれます。このコミュニティをどうデザインするかで、交流の仕方はかわってきます。協同で活動するベースになる仲間関係を作ったり(E)、相手意識を持たせることで、学習意欲を引き出すのはこのレベルです(C)。学級間・グループ間・個人間のコーディネーションが課題になります。

コラボレーション(6章)・・・出会った仲間と何をするか?下の種類のところで整理しますが、交流学習の活動はさまざまです。大事なのは、どんな内容で交流するか?そこでは地域を超える必然性のある学習課題を設定したり、協同作業を子どもたち自身が円滑におこなうための力を身に付けることがねらいとなります。そして、教師が、交流をどんな学習としてカリキュラム構成するかによって、何をゴールにしてコラボレーションするかが決まってくるわけです。

 このモデルが学校間交流学習を考える上でのおおまかな枠組みです。実際には、交流のスケジュール、場面設定、メディアの使い方などなどを考えていく中で、3つのレベルが互いに影響しあって展開していくことになります。


学校間交流学習の種類

 学校間交流学習といってもいろいろありますね。国際交流から、同じ地域を流れる川の上流と下流で共同調査をしたり・・・。そこで、交流学習を、交流の規模と、中心となる活動の目的の2軸から分類をしてみました。

 ◆交流の規模

遠隔独立型
地域共同型
プロジェクト型
・2校〜数校
・地理的に離れている
・2校〜数校
・地理的に近い学校との交流
・地域に限定されたプロジェクト
・10校以上
・運営ホストになる学校,団体がある

 ◆中心となる活動

 で、実際に、この3×4の12タイプの交流学習がどう行われているか?また、そこでテレビ会議や掲示板などがどう活用されているか?を46の事例から比較検討しています(詳しくは本文4章または論文「学校間交流実践とコミュニケーション・ツールの関係性」参照)。


学校間交流学習でつけたい力

 では、学校間交流学習をとりいれる意義、つまり、教師は、何を目的に、子どもたちにどんな力を育てることを意図して交流学習を実践しているのかを整理してみましょう。交流学習は上で示したように、さまざまな種類がありますし、分類の基準もいろいろです。6章では、100校プロジェクト、Eスクエアプロジェクトで実践された126事例をとりあげて、それぞれにどんな「ねらい」があったのかを抽出・整理してみた結果を示しておきます。

A:コミュニケーション能力の育成:相手に伝わるように発表する,話し合うなどのコミュニケーション能力

B:他地域・異文化理解の育成:相手校との交流を通して,相手の地域・文化を理解したり、自分たちの学校や地域を再認識する

C:学習を追究す る意欲の育成:交流テーマについての意見交換を通した学習の広がり・深まりを求める。

D:情報活用能力の育成:電子メール,テレビ会議システムなどのコミュニケーションツールを交流場面に活かすことで、情報活用能力の育成を図る。

E:協同作業する力の育成:共同制作,イベントの共同開催といった活動を通して,互いの役割 分担,コーディネートなどコラボレーションの仕方そのものを学習課題とする。

 6.2章ではここに挙げたような「ねらい」が、どのような交流タイプに多くみられたのかを分析し、上のモデルのもとになった、3つの層とねらいの関係を明らかにしています。


おわりに 〜学校間交流学習をはじめるための10のステップ

 いかがでしたでしょうか?学校間交流学習がどのような学習であり、どのような種類があり、それによってどのような力の育成が可能なのかを整理してみました。そしてそれら全体を見渡す見取り図として、上のモデル図があります。学校間交流学習を実践していく中で考えなければいけないさまざまな要素は、このモデル図のような枠組みの中で、理解されるはずです。

 さて、最後に「こんなモデル図があっても結局どこからはじめればいいの?」という方のために、「学校間交流学習をはじめるための10のステップ」をご用意しました。詳しくは7章2節を。ここでは項目だけピックアップしておきます。

    1. 交流相手を見つける
    2. 交流の素材・テーマを考える
    3. 使用できるメディアを選ぶ
    4. 具体的な交流活動をイメージする
    5. ねらいを明確にする
    6. 学習者のコミュニケーション・スキルのトレーニング
    7. 学習者間の仲間意識を育くむ
    8. コミュニティをデザインする
    9. 展開を見通す
    10. 教師間の連携を図る




博士論文のダウンロード

  (PDF:4.4MB/LHA圧縮:2.6MB)
※ どーもダウンロードがうまくできないというウワサもあり。ダメだったらメールでご連絡ください!


博士論文の目次をご紹介

要旨

1 章 序論 研究の背景および目的

2 章 先行研究および関連する領域

2.1 学校間交流学習の定義
2.2 学校間交流学習の広まり
2.3 学びの協同性を探る
2.4 学校間交流学習における協同性

3 章 研究の方法

3.1 学校間交流学習の3階層モデル
3.2 研究プロジェクトの概要と分析モデルとの対応

4 章 交流場面におけるコミュニケーション・ツールの役割

4.1 メディアとコミュニケーション
4.2 コミュニケーション・ツールの利用動向
4.3 掲示板によるコミュニケーション
4.4 テレビ会議によるコミュニケーション

5 章 多層的なコミュニティがつくる学習環境

5.1 学校間交流におけるコミュニティの多層性
5.2 実践のつながりが形作るコミュニティ
5.3 教師コミュニティが支える学校間交流

6 章 コラボレーションによる学びとリアリティ

6.1 学習意欲を引き出す他者とリアリティ
6.2 学校間交流で教師がねらうもの
6.3 交流で変わる児童の意識
6.4 交流のテーマ設定と協同的リアリティの獲得

7 章 結論 本研究の成果と今後の課題

7.1 学校間交流学習の協同性とリアリティ
7.2 学校間交流学習をはじめるための10のステップ
7.3 学校間交流学習の一般化に求められる支援環境
7.4 おわりに 今後の課題と展望

参考文献
謝辞
資料


これまでの発表・論文・書籍


参考(にしそうな)文献・・・無理やり分類してみました。とりあえず本だけ〜


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